いざ、6年ぶりのフリータイム

"オール"、それは親密度ランクの初期に発生する確変イベント。「まあ数時間なら話してもいいか」から「まあ一晩過ごしてもいいか」へ関係性が深まった結果にして証。『誰かと過ごす深夜0時以降』という、親友欲しい勢にとってのまばゆく分厚い鉄の扉が開く瞬間でもある。

そう、6年ぶりに、オールをしてきた。

 

予想外。まったくもって予想外だった。先日、大学時代のサークルの後輩(男の子)と飲みに行ったのだが、店を出たあとカラオケへ行くことになったのだ。

後輩「このあとどこか行きませんか?2軒目か、あとはカラオケか」

俺「カラオケ行くか。カラオケなら、まあ中でゆっくり過ごすとかでもいいし」

 

よもや、向こうから誘ってくれるとは。先を越されてしまった。

後輩くんとは前回飲んだときカラオケに行ったという前例があったので、

(今回も行けたらいいな。様子を見ていけそうなら誘ってみよう)

と事前にひそかに計画していたのだ。

なので、誘ってもらえた時点で満々満足。会社で一仕事終えたときに、デスクで「ふぅ~っ」と自分を讃える一息をついて余韻に浸るような、やりきった気分だった。

だったのだが、だったところでの、

 

「じゃあ、オールしませんか?」

 

・・・もうね、返答は決まってるのになぜかしどろもどろになったわ。嬉しくてその嬉しさを表現するのに緊張するというか、ぐちゃぐちゃな興奮が頭に渦巻いてるのをそのまま出力したらなんかすごい声出てひかれそうだから抑えなきゃみたいな。「する!!!する!!!」をクール装って「しよう。全然っ、しよう」に抑えるのが大変だった。声を発してる最中、言葉の膜がぐにゃぐにゃになって感情が漏れだしそうな、声が震えるのを感じて、それを自分が聞いている。そんな感じだった。

人と深く関わりたい、後輩くんと今一歩仲良くなりたい。だからカラオケに誘いたいと考えてたくせに、オールという選択肢は頭に浮かばなかったのも不思議だ。たぶん、行けるだけで万々歳と思っていたので、それ以上は現実的考えとして浮かばなかったんだろう。(大げさにたとえるなら、天国に行けたら、とは思っても、天国より更にいい場所に行けたら、とはあまり考えなそうみたいな?)

 

近くのコンビニで携帯用歯磨きを買った。なんかお泊り会みたいだなって、はやくはやくって、急ぎ足で。歯磨きを買うのを楽しく感じることってなかなかない気がする。

フリータイムで申し込んだときも、少し自慢げな気分になって「うわあ、フリータイムなんだよなあ」とメニュー表の文字をじっと見つめてしまった。

2時を過ぎた頃には2人とも寝たと思う。自分はしばらく、廊下から流れる曲の音が大きくて寝つけずにいた。でも、「音でけぇなあ」と思ったけど、そう思ったことも忘れないでいたい。変な体勢で横になりながら、ふとそんな気持ちが湧いてきて自分にほほえむ。今度は、なんだか寝つけそうな気がした。